データを“使いやすくする”とはどういうことか
データ整備における「整理」とは何か
「データを整備する」と聞いたとき、真っ先に連想されるのは「整理」だろう。この「整理」とは、データを使いやすくするために行うことである。
分析者にとってのデータの使いやすさとは、集計・可視化がすぐにできること。では、何をどうすれば“使いやすくなる”のか。その状態を実現するための具体的な整理には、大きく2つの側面がある。
データそのものを整理する
第一の側面は、データの中身と構造を整えること。
これは「分析前の前処理が最小限で済むようにする」ことに直結する。型が揃い、粒度が統一され、ノイズや重複が除去されていれば、不要なクレンジングや確認作業を大幅に減らせる。
単に「綺麗に見えるデータ」ではなく、「分析にすぐ取りかかれる状態」に整えることが目的である。
より詳しくは、次で説明する。
- 整理で行うこと1・値レベルの整理(データの中身の標準化):各値の欠損・異常・表記揺れなど、個別のデータ項目に直接手を加える
- 整理で行うこと2・構造レベルの整理(構造・設計の最適化):複数テーブルの統合、構造の整形、履歴管理など、全体のつながりや見せ方を整える
結合しやすい
異なるテーブルやファイルをJOINする際に、IDやキーの整合性が保たれている状態。
たとえば、顧客IDが文字列と数値で混在していない、カラム名が統一されている、同じ顧客に対して一意なIDが振られている、など。IDの粒度や関係性(1対1、1対多)が崩れていないことも重要である。
分析では複数のデータを横断的に使うことが多いので、結合がしづらいと動きが止まる。
集計しやすい
レコード単位や構造が明確で、集計対象がはっきりしている状態。
たとえば、「1レコード=1注文」なのか「1注文=複数行」なのかが明示されており、集計の前提を誤解しない。不要な行(テストデータ、破棄データなど)が除かれている、極端な外れ値が検知・処理されている、といった前処理も含まれる。
さらに、数量や金額のような集計対象の値が適切な型・桁数で記録されていることも重要である。例えば年齢であれば、数値型で適切な範囲内に収まっている状態になっている。
可視化しやすい
グラフやダッシュボードにそのまま載せられるような分類や粒度で整理されている状態。
たとえば、「男性」「女」「女性」「不明」「未設定」などのバラついたカテゴリ値が、「男性」「女性」「不明」に正規化されている。日付や時間も整っており、月別・週別・日別といった時系列での比較がスムーズにできる。
また、可視化に適した単位ですでに集計されている、あるいはそうした集計が容易な構造になっていることも含まれる。
使うための環境を整理する
もうひとつの側面は、データにアクセスし、すぐに使えるようにするための環境整備である。
どんなに内容が整っていても、目的のファイルやテーブルにたどり着けなければ意味がない。現場では、データの内容以前に「どこに何があるのか」が問題になることが多い。
軽い・速い
データのサイズや構成が適切で、ツールや処理環境で快適に使える状態。
たとえば、スプレッドシートがフリーズしない、SQLがタイムアウトしない、BIツールでサクサク動く、といったレベル感である。
必要に応じてデータを分割して扱えるようにしたり、サンプリングされた軽量版を別に用意したりすることも含まれる。
環境によっては、実データをすべて扱えないケースも多いため、実行可能なサイズでデータを整備しておくことは不可欠である。
見つけやすい・迷わない
必要なデータにたどり着くまでの導線が明確で、探索や確認の手間が最小限で済む状態。
たとえば、フォルダ構成やファイル名に一貫したルールがある、最新版がひと目でわかる、不要な旧版やテストファイルが残っていない、など。
英語コードではなく日本語名が併記されている、といったカラム名が読みやすく内容を見なくても中身が予測できることも含まれる。
このような環境があることで、分析者は本来の作業に集中できる。
整理は整備の一部にすぎない
ここまで述べてきた「整理」は、データ整備の中でも中心的な作業だが、すべてではない。
データがそもそも足りていなければ、獲得や集約といった前工程への関与が必要になるし、整理された状態を維持するには品質管理が必要だ。更新プロセスや管理ルールも欠かせない。
また、定義・単位・更新頻度などを記したメタデータも、併せて記録されていると望ましい。
整理はあくまで出発点であり、整備全体の一部である。だがこの部分が不十分なままでは、どれだけ他を整えても、データは使いづらいままで終わる。