なぜ抽出の依頼のやり方を身に着ける必要があるのか

依頼の質が分析の成否を決める

抽出を誰かに依頼する場面は珍しくない。時間やスキルが足りないとき、あるいは整備不足で自分では取り出せないときは、抽出を担ってもらうしかない。

だからこそ、その依頼の質がそのまま分析の質に直結する。にもかかわらず、そのやり方を学ぶ機会は少なく、依頼する側の意識やスキルが軽視される場面も多い。

ここでは、抽出の依頼のやり方を学ぶ前に、なぜそれを身につける必要があるのかを3つの視点から説明する。

自分で全部やる必要はない

データを使って判断する立場の人が、前段の準備に追われていては本末転倒だ。

データの抽出には、データ構造の理解、定義の確認、SQLの作成、外部データの取得、エンジニアや法務とのやりとりなど、さまざまな業務が発生する。これらをすべて自分でこなそうとすれば、分析や企画にかける時間が圧迫される。

そうなれば、本来の目的である企画や意思決定の質も落ちてしまう。適切な依頼を出して他の人に担ってもらうことで、自分の時間を作り出すことができる。だからこそ、依頼のやり方を学ばなければならない。

良い成果は良い依頼からしか生まれない

抽出は専門性の高い作業であり、任せる相手が高いスキルを持っていたとしても、それを活かせるかどうかは依頼内容にかかっている。

データ担当者は単にSQLを書けるだけでなく、組織全体のデータの整備状況やガバナンス、他部署で作成・管理されているデータについても詳しく知っている。依頼者が知らない便利なデータや、効率的にデータを取得・加工する方法を熟知していることが多い。

しかし、依頼の内容が曖昧であれば、その専門性を活かすことはできない。誤った定義や期間設定といった初歩的なミスが起き、手戻りや再依頼が発生して無駄な時間とコストがかかる。

逆に、適切に依頼を出せれば、相手の専門性が最大限に発揮され、短時間で正確な成果が得られる。依頼のやり方を学ぶことは、抽出のスピードと品質の両方を上げることにつながる。

主体は依頼者にある

どのデータが必要か、なぜそれが必要か、何に使うのかを決める責任は依頼者自身にある。「どのKPIを見ればよいか」「どう集計すればいいか」といった設計の責任まで人に委ねてしまえば、依頼者が自分で考えるべき仕事を放棄しているのと同じだ。

それに、抽出側が内容に違和感を持っても、それを指摘してくれるとは限らない。立場的に言いにくかったり、「とにかく出すこと」が評価される文化があったりして、そのまま対応されることは珍しくない。

その結果、行いたい意思決定には関係のないデータが出てきたり、依頼者が気づかないまま誤ったデータを使い続けることになる。

特に依頼先が外注の場合は注意が必要だ。依頼が明らかに無駄でも、それが収益になるのだから断る理由はない。指摘されたり、断られたりすることを前提にしてはいけない。

だからこそ、これは本当に必要な依頼なのか、自分で自分に問い続ける姿勢が欠かせない。依頼のやり方を身につけるとは、責任を持ちつつも、誰かに適切に頼る力を身につけるということでもある。