データの依頼のやり方

まず何が欲しいのかを明確にする

依頼をする前に、自分が欲しいものが何なのかをはっきりさせる必要がある。ここが曖昧なまま依頼すると、出てきたものが期待と違う、という手戻りが発生する。

欲しいものは大きく3つに分かれる。「提案」「インテリジェンス」「データ」だ。「データ分析」にはこの3つのアウトプットがあるのだが、これらを混同しているためにコミュニケーションがうまく進まないのをよく見かける。

  • 提案:何をすべきかの具体的な施策や行動案。「解約率を下げるにはどうすればいいか」のような問いに対する答え
  • インテリジェンス:特定の意思決定に使える情報。「今月の解約率が想定より高い5%になりそうだ」のような、判断に直結する情報
  • データ:インテリジェンスの材料となる情報。「先月までの月別解約率の推移」のような、それ自体では意思決定に使えない情報

この3つは依頼先が異なる。

  • 提案を求めるなら、コンサルタントやマーケターなど、施策の立案に責任を持てる人に依頼する
  • インテリジェンスを求めるなら、データから意味を読み取れるアナリストに依頼する
  • データを求めるなら、データの抽出・加工ができる抽出担当者に依頼する

ありがちな失敗は、データの抽出担当者に提案やインテリジェンスまで求めてしまうことだ。「このデータを出してほしい。あと、ここから何が言えるかも教えてほしい」という依頼は、2つの異なる仕事を1つの依頼に混ぜている。抽出担当者がたまたま分析に詳しければ対応できることもあるが、それは本来の役割ではない。

依頼の最初の一歩は、自分が欲しいのは提案なのか、インテリジェンスなのか、データなのかを区別することだ(なお「データアナリスト」という職名は本来インテリジェンスを担う役割だが、現状の日本ではこの職名で提案やデータの仕事をしている人が多い)。

以下「データ」を求めることが明確になっていることを前提に話をする。

依頼に必須な情報

もし具体的にまとまっていないのであれば、依頼を出すにはまだ早い。

具体的な内容

何のデータが欲しいのかを明確に書く。「売上に関するデータ」ではなく、「2025年1月〜3月の、商品カテゴリ別の月次売上金額」のように、対象・期間・粒度・指標を特定する。

曖昧な依頼を出すと、抽出担当者が行間を読んで補完するか、確認のためのやりとりが発生する。どちらも時間の無駄だ。

前提条件・制約

データの定義や条件がある場合は明記する。たとえば「キャンセル済みの注文は除外する」「税込か税抜か」「テスト用のアカウントは含めない」などだ。

これを書かないと、抽出担当者は自分の判断で条件を決めることになる。その判断が依頼者の意図と一致している保証はない。あとから「テストアカウントが混ざっている」と気づいても、それは依頼時に伝えなかった側の責任だ。

納期

いつまでに必要かを伝える。「なるべく早く」は納期ではない。「3月20日の会議で使うので、3月18日の午前中までに欲しい」のように、具体的な日時を指定する。

納期がわかることで、抽出担当者が作業の優先度を判断できる。逆に納期がない依頼は、他の依頼との優先順位がつけられず、対応が後回しになりやすい。

依頼にできれば含めたい情報

あまり増やしてしまうと依頼をすることへのハードルが高まってしまうリスクがある。そのため、できればという表現に留めておくが必須にしてもよい項目。

目的・背景

このデータを何に使うのかを一言でも書いておくと、抽出担当者が文脈を理解しやすくなる。たとえば「解約防止施策の効果を検証するために使う」と書いてあれば、抽出担当者が関連するデータの存在に気づいたとき、教えてくれる可能性がある。

ただし、背景の説明だけが長くて何のデータが欲しいのかがわからない依頼は逆効果だ。あくまで具体的な内容が先で、背景は補足に留める。

アウトプットのイメージ

最終的にどういう形で使いたいのかを伝える。たとえば「Excelのピボットテーブルで集計したいので、1行1レコードのCSVで欲しい」「このスプレッドシートの表と同じ形式にしてほしい」のように、形式や粒度をそろえるヒントになる。

ただし、作り込みすぎてはいけない。完成形のテンプレートを細部まで指定すると、抽出担当者の裁量を奪い、かえって非効率になる。データの出し方や構造の工夫は抽出担当者の方が詳しいことが多い。大まかな方向性を共有する程度にとどめる。

依頼者の役割

何のデータが必要かを見極めるのは依頼者の仕事だ。自分が解決したい問題は何か、そのために何を見る必要があるか、どんなデータがあればそれが見えるか。この思考を経て初めて依頼になる。

一方で、そのデータをどうやって取得するか、どれくらいの工数がかかるか、そもそも実現可能かどうかの判断は抽出担当者の仕事だ。依頼者が方法まで指定する必要はない。むしろ指定しない方がよい。依頼者は「何が欲しいか」を伝え、抽出担当者は「どうやって出すか」を判断する。問題があれば抽出担当者から相談を持ちかける。この役割分担が崩れると、手戻りが増える。

依頼者の心がけ

依頼の質は、フォーマットだけでなく依頼者の姿勢にも左右される。それぞれ詳しく書くと長くなるので、ここではひと通り挙げておく。

依頼の中身について

  • 具体的な行動に紐づけて考える。誰が何をするのかの意思決定が伴っていないと、ただ見るだけになる
  • 必要なデータを必要なだけ依頼する。興味本位や「あればいいかも」で依頼しない
  • 定義がぶれそうな指標は明確に定義を決めて伝える。自分の部署の定義が他と同じとは限らない
  • 必要なデータは整理してわたす。セル結合の解除、過去のメモ書きの削除、表記ゆれの修正など、最低限の整理をしてから渡す

依頼のタイミングと連絡

  • 早めに依頼する。施策やキャンペーンが始まってからでは遅い。新しいデータは調査が必要で、そもそも取れていないこともある。依頼の前に相談しておくとなお良い
  • 変更・取り消し・納期変更は早めに連絡する。作業が進んでから「やっぱりいらない」が最もリソースを無駄にする
  • 完了したら伝える。放置する人が多いが、担当者は困っている

無駄になるかもしれないことを意識する

  • 抽出にはコストがかかっている。気軽に依頼したつもりでも、裏側で膨大なリソースを費やしている可能性がある
  • 完璧を求めず、許容範囲なら見切りをつける
  • 抽出側からの提案を安易に受け入れない。「あっても困らない」で追加すると他の依頼が遅れる

必要なら遠慮しない

  • 忙しそう、手間がかかりそう、間違っているかも、といった理由で躊躇する必要は一切ない。